今年のNHK大河ドラマもそろそろ大詰めを迎えそうですが、主人公の渋沢栄一という人は「日本資本主義の父」などとも呼ばれ、明治時代に日本最初の銀行を作ったり多くの企業を設立するなどして近代的経済制度を導入し、我が国の近代経済の礎を築いた人物として評価されています。また慈善事業や文化事業にも力を尽くし、経済の領域を超えて近代日本社会の基礎を築くのに貢献しました。自分の私利としての金儲けのために経済活動を行ったのではなく日本経済の近代化のために様々な分野において活動した人物で、公的、社会的な道義心を民間主体の経済活動と共存させようとした点で単なる実業家ではありませんでした。
彼の講演を基にした著書『論語と算盤』では、「論語」に象徴される倫理・道徳と「算盤」に象徴されるビジネス活動とは一見お互い遠い存在のように見えながら実はそうではないのだ、道徳と経済は両立し、「論語」は経済活動によって本当の意味で世の中を潤していくのだと主張します。このあたり、江戸期の在野の思想家たちが儒教や仏教の教えを市井の人々の仕事や事業への勤勉さと結び付けたのを思い出させます。かなりの事業を営む富農の家に生まれ育った渋沢には当時のそうした思想の影響があったのかもしれません。
企業活動を通じてこそ人の正しい生き方が実現され、公正な事業活動によって求められてこそ真の利益が得られるとする渋沢は、人の正しい生き方を求めることと経済活動とは同じ方向を向いて高め合うものだと考えているように思われます。道徳と経済はいわば車の両輪のようなものということでしょうか。現代でも利益の追求と倫理や道徳は矛盾するものだと考える人が少なくないのに、随分面白い考え方をしたものだと思います。しかし仕事を通しての自己の成長や自己実現を考える現代人には案外受け入れられる考え方かもしれません。私たちも公正な企業活動を通して私たち自身を高めると共に、そのことを通じて社会に貢献していきたいと思います。